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まえがき

    私が The Beatles の音楽を初めて耳にしたのは、日本におけるレコードデビューの直後。1964年3月、中学二年が終った春休みのことでした。ラジオから流れてきた I Want To Hold Your Hand にしびれて、翌日レコード店へ走りました。その後、ビートルズのものに加えて、他の英国のビートグループの旧作および新作レコードも続々と発売されたのですが、私は彼らの音楽とファッションのみならず、彼らの言葉である英語に大きな興味を抱くようになりました。好きになると勉強ははかどるもので、高校でも大学でも英語の成績は常に上位。レコードの歌詞に親しみ、その多くを暗記していたことも役立ったと思います。そして私のビートルマニアは、バンドの解散にもめげず、レノンとハリソンの死も乗り越えて、今でも続いています。
    そのような老練なビートルマニアックが、なぜ今になって本書を書くことになったのか。それは、1980年代以降に日本で発売されたレコードの歌詞カードや図書にどのような記述があるか知らなかったからです。1968年11月発表のホワイトアルバム以来、新譜を一刻でも早く手にしたい私は、アメリカから航空便で入荷する輸入盤を買っていました。CDも米国盤で揃えました。また、書籍は、英米で発売された信憑性のありそうなものを原書で読むだけで、日本語に焼き直されたものには関心を払いませんでした。私にとって新しい情報はないと考えていたからです。
    ところが2年ほど前、書店の店先でたまたま見かけたビートルズ関連図書をめくって、驚きました。掲載されている歌詞の誤訳の多いこと。各CDに付属する歌詞カードはどうかと調べてみたら、その対訳にも誤りがたくさんありました。それどころか、歌詞自体の聴き取りが正しく行われていない箇所もあちこちで見つかりました。レコードが最初に発売されてから40年前後の時が経っているというのに、このような稚拙や誤謬が今でも、しかも公式CDのパッケージにまで、まことしやかに記されているとは。ビートルズの歌詞が正確に理解されず、そのために彼らの考え方が誤解されたり、その文芸の持つ価値が正当に評価されていなかったりするような現状を知って、彼らを愛する私は、行動を起こす決心をしました。
    不十分であったり、不正確であったりする情報が既に日本の隅々まで蔓延していると思われる中、正しい読解をどのように広めたらよいのか。問題点の結論を単に指摘するだけでは、通説になっている間違いを駆逐することは不可能でしょう。そこで、私の歌詞解釈の正当性もしくは合理性を、初歩からの英文法解説を交えて著述することにしました。学問性を併せ持たせることによって、説得力を高める試みです。そして、私がこのようなアプローチを取ることによって、ビートルズ音楽の愛好者は、ビートルズへの理解を深めるのみならず、楽しみながら英語学習を行うことができるはずです。
    本書が皆さんの役に立てば幸いです。ご意見などがあれば、お聞かせください。異論や、私の知らない情報は、特に歓迎です。
    最後に、本書執筆の原点を振り返ると、私にとって忘れてはならない人がいます。我が家のステレオ装置を私が独占することに目をつぶってくれた両親。そして都立石神井高校において英語学習を厳しく指導してくださった田中貴美夫先生に、あらためて感謝します。

2007年6月                 
秋山直樹